TANTOTEMPOで現在開催中の細江英公さん「花泥棒」の展覧会のトークショーのため、2月5日細江英公さんが神戸に来られました。
「花泥棒」のシリーズは鴨居羊子さんの制作した人形を細江さんが撮影した1966年の作品で、長らく眠っていたシリーズとのことでしたが、あることを契機に発掘され、再プリント、写真集出版に至った経緯があります。
細江英公さんはこの写真展のために神戸を訪れてくださり、精力的に様々なイベントに登場してくださりました。

【トークショーはカフェ部分で満員の中行われる】
5日午後に新神戸駅から直接TANTOTEMPOに到着された午後3時には、TANTOTEMPOはトークショーに参加される方々や写真展を見に来られた方でいっぱいでした。トークショーは午後4時からカフェ部分を使用して開催され、まず細江さんが前回神戸を訪れた1995年の大震災当時の様子をお話しになりました。また、震災の被害を補うために世界中の優れた写真家700人に声をかけ、写真作品の提供を呼びかけ、オークションで得たお金を神戸の災害義援金に充てた当時の活動について語ってくださいました。
また、花泥棒のシリーズの撮影について、1966年当時鴨居羊子さんから依頼され鴨居さん私家版の作品集「ミスペテン」のための撮影であったこと、また人形をつれて様々な場所で撮影するうちにまるでひとを撮っているような気がして、いたずらな人形たちを様々なポーズで自由に撮影したことなどを語ってくださいました。「花泥棒」というタイトルは、そういういたずらな雰囲気を示すのに最も適した言葉だった、とのことです。薔薇刑のシリーズを撮影した三島由紀夫氏との思い出話には参加者皆さんが目を輝かせて聞き入っていたのが印象的でした。

【トークショー後のレセプションの風景・瞬く間にひとの輪が】
トークショーの後は簡単なレセプションを行い、細江さんを囲んでひとの輪ができていました。写真絵本「花泥棒」のサイン本もたくさん販売され、またすでに皆さんが持っておられる細江さんの写真集にサインを求めるトークショー参加者の姿もありました。細江さんは柔和な笑顔で応じておられました。
TANTOTEMPOが細江英公さんに写真展開催をお願いした後、昨年10月に大変うれしいニュースが飛び込んできました。様々な文化芸術活動について、これまでも叙勲をされるなど高い評価を得てこられたのですが、今回は文化功労者に選出されたのです。TANTOTEMPOではせっかく神戸に来ていただくのであれば何かお祝いができないか検討し、「お祝い神戸の会」を開催することが決まりました。細江さんも大変喜んでいただいてお受けくださいました。

【会場に入場する細江英公氏と山田代表】
2月5日午後7時から神戸オリエンタルホテルバンブールームで開催された「細江英公文化功労者お祝い神戸の会」は、神戸市の代表、写真展を共催することとなった神戸ファッション美術館、細江さんにゆかりのある写真家や細江さんのファン、三島由紀夫に関連する著述家で元NYTimes東京支局長などを歴任されたヘンリー・スコット・ストークスさん、関西を中心とした文化やメディアの担い手、ギャラリーの皆さん、TANTOTEMPOの友人関係者の皆さんが集まってくださいました。また今回の写真展で作品を購入してくださった方がたはご招待としてご参加いただきました。

【開会の言葉を述べる山田代表】
まず、細江さんがTANTOTEMPOの山田代表と腕組みをして入場されました。ホテルでこんな盛大な祝賀会とは考えてなかったなぁ、タキシードで来るんだった、と照れてお話しになっておられましたが、存在感は本当に大きく、堂々とした入場でした。その後山田の開会の挨拶の後、神戸市の市民参画推進局の岸田さまから乾杯のご発声をいただきました。
お食事は着座でしたがビュッフェスタイル。乾杯の後はお食事タイムとなりそれぞれのテーブルで、また席を移動しながら自然に交流の輪ができていました。実はテーブルには仕掛けがあり、テーブル名が「花泥棒」「薔薇刑」「抱擁」など、細江さんのシリーズ名となっており大変好評だったと思います。我ながらいいアイデアでした。他に「おかあさんのばか」や「鎌鼬」「おとこと女」のテーブルもあり、皆さんに受けていたと思います。また、会場に設置されている巨大なスクリーン上に細江作品やご略歴を紹介するムービーを流しながらの宴会となりました。

【三島由紀夫氏のエピソードを述べるHenry Stokesさん】
一旦皆さんに着席いただいて、お祝辞をいただきました。Henryさんは以前にもTANTOTEMPOに来てくださったことのある方で、日本の戦後、特に三島由起夫氏とのご交遊があり、著作「三島由紀夫、生と死」の本文中に薔薇刑の撮影に関連する細江英公さんと三島由紀夫の交流についての記述があります。欧米での細江作品の根強い人気について、薔薇刑の三島由紀夫のイメージが無断で使用されるほどだ、とユーモアを交え半ば真剣に話されていたのが印象的でした。

【清里フォトミュージアムに作品が収蔵されている西山武志、北義昭両写真家の表敬の挨拶】
その後ファッション美術館の関係者、清里フォトミュージアムに作品が収蔵されている若い写真家たちが清里の館長である細江英公さんにお祝いのメッセージを伝えておられました。さらにTANTOTEMPOが今後手がけていく予定の偉大なアーティストの考え方をアーカイブし若い世代の想像力を啓発するプロジェクトに細江さんの監修をいただけるよう、プロジェクトを動かす大学生たちの表敬と花束贈呈、さらに関西のアートやメディアの担い手からのお祝辞、参加者の皆さんのじゃんけん大会を通じてささやかなプレゼントもありました。そして参加者全員を代表してTANTOTEMPO山田から記念品の贈呈をさせていただきました。細江英公さんは始終笑顔で参列者の皆さんと交流をもたれておられました。良き祝賀会だったと喜んでいただけたのが何よりでした。

【講演会場のオルビスホールは250名超える観客が集まった】
2月6日は朝食をともにし、その後神戸の街並をご覧になりたいというのでドライブをしました。細江さんは震災当時神戸に入られたときの様子を非常によく記憶されていて、復興した街をご覧になり見事に復活した様子に驚いておられました。一方で、震災復興住宅の存在など、脇浜地区から六甲アイランドの様子をご覧になって、復興にかかった大変な努力とその規模や住宅の大きさに静かに見入っておられました。

【展示作品を前にする細江氏】
六甲アイランドの神戸ファッション美術館では、まず細江英公写真展「ファインダーから視た肉体」の会場である4Fのギャラリーを訪れました。すでにたくさんの写真愛好家がギャラリーで作品を見ていらっしゃる中、細江さんも一つ一つ作品を確かめながらご覧になっておられました。
講演会は、5Fオルビスホールで開催され、本当にたくさんの聴衆が集まってくださいました。中には外国の方々の参加者もあり、国際的に認知されている細江さんならではの講演会だったと思います。

【大スクリーンに映し出される細江作品と細江英公氏】
講演会では、薔薇刑に始まって現在に至るまでの作品の数々がスライドショーで紹介され、それぞれのイメージに関する記憶と作品に対する思いなどが紹介されました。特に「薔薇刑」の三島由紀夫氏、「鎌鼬」の土方巽氏、「胡蝶の夢」の大野一雄氏など、それぞれの被写体と自身の関係性にこそ写真に命を吹き込む要素があるのだ、写真芸術とは関係性の芸術だ、との持論を展開されておられました。予定を大幅に越える講演会となり参加者の盛大な拍手で終了しました。
その後はお疲れになったご様子もなく、新幹線で東京にお帰りになり、2日間の神戸の旅は終わりました。

【細江さんに花束を手渡す甲南大学写真部の井上さんと鶴田さん】
細江英公さんが神戸に来てくださったことの意味について、僕自身もいろいろと考えてみました。そろそろ大きなひとと組んだ方がいい、それだけのことができるギャラリーだ、とある方から特別にご紹介いただいて今回の展覧会になったこと、またそれを発展的にファッション美術館に働きかけて展覧会・講演会が実現し、文化功労者選出を受けて祝賀会とつながっていったこと、またそれに関わって協力いただいた方々のご尽力、すべてが結集しての神戸だったのではないかと思っています。僕自身、写真のおもしろさに触れてなお感じる最近の写真のあり方に対する反発やつまらなさ、ギャラリーの苦しい経営という観点でみても、これほどの大きな存在の写真家の写真展を開催できたことはTANTOTEMPOにとっても財産です。また、細江さんの写真作品について、予想を遥かに超える数を世に送り出せたことも、また国際的な認知が進んで海外の写真家やギャラリーから驚きのメッセージが届いている現状などを考えると、細江英公というお名前と実体の大きさは計り知れないものがあるのだと実感します。一方で、写真とはいったい何なのか、写真という芸術が170年という歴史の中でたどってきた変化や表現のある種のうつろいに驚くばかりです。被写体との関係性の芸術である、という細江さんのお考えは、つまるところ美学の表出を両者のバランスが描き出しているとも読み取れる訳です。最近の表現は、被写体が見えなかったり、被写体の力に負けていたり、自分本位な考えに終始する表現、直近の賞や人気にただ習う表現、また写真というものの本質を全く考慮しない作風など、表現者はあらゆることに不勉強で無頓着ともいえ、そのことが写真の存在を危うくしているのです。何か新しいことをしているつもりになっているけれども、何も新しいことなんてしていない、みんなかつて誰かがやっていた同じようなことをさほど追求もせずに繰り返しているだけ、写真表現に流行などが持ち込まれている平坦さはなんとかならないものか。カメラを初めて買ったような写真に関わり始めた人たちを集めて写真を教えることが産業となり、その人たちをコンテストやレビューに誘導することがまた産業化し、カメラメーカーと写真教室とエンドユーザーが結びついてたこつぼ構造化しているのが現在の写真界隈の一局面。日本はまだまだカメラ王国、写真王国ではない、表現の自由には触れることはないにせよ、これは細江さんの言葉でもあるのです。写真の未来にはこれからも広大な地平が約束されていると僕自身も確信していますが、やはり教育や政治など、写真や芸術にもポジティブな社会の参加が必要だと痛感します。その意味で、細江英公さんや他の優れた日本の写真家の高い業績から学ぶことが何より大切なのではないかと実感する今回の講演会でした。

【ルナ・ロッサの作品展示を見入る細江さん】
最後に、今回の2つの写真展開催、祝賀会開催に多大なるご協力いただきました細江英公さんのご子息細江賢治さま、冬青社高橋国博さま、神戸ファッション美術館百々徹学芸員さま、久保利さま、中瀬さま、祝賀会のお手伝いをいただいた白石尚子さま、木村勝一さま、火置浩一さま、Henry Scott Stokesさま、Henryさまをおつれくださった笠野泰照さま、乾杯のご発声をくださいました神戸市市民参画推進室岸田さまにこの場をお借りして感謝の意を表したいと思います。本当にありがとうございました。また、お忙しい中トークショー、パーティーにご参加・ご参列くださった皆さま、作品をご購入くださった素敵な皆さまに、こころより感謝申し上げます。TANTOTEMPOのスタッフの田邉、宮原、西山各氏にも感謝いたします。