2011年5月アーカイブ

DSC00113.jpg思い返せば2008年5月10日。TANTOTEMPO誕生のその日。

この時も雨が降っていて、ハービー・山口さんとギャラリー立ち上げにご尽力くださったBlitzGalleryの福川氏を出迎えに栄町通を傘をさして歩いていたのが昨日のことのように思い出されます。昨日も時折激しい雨が降る中、たくさんのハービーさんのファン、またTANTOTEMPOの活動にいろいろ参加してくださっている私たちの友人を迎えて、ハービーさんのトークショーを開催しました。3年というと長いようで短いようで、やはり長い日々でしたが、TANTOTEMPOが少しずつ成長してこられたのは良き写真家に恵まれ、たくさんの写真ファン、友人、また他の写真ギャラリーや関係者のご協力があったからだと実感します。アートや写真界隈のいい話題もそうでないと思われる事柄も、日々写真の勉強をしながら咀嚼し理解するしかない僕たちにとって、3年もよく続けてこられたな、と思いいる一方、経済的には決して楽ではない、むしろかなり綱渡り的な事情を抱えながらの日々である訳で、いろいろな思いが交錯することも確かです。しかし、写真というものはなぜか愛しくなぜか腹立たしいもので、とすると何やらギャラリーを育てていることが息子か娘を育てているかのようにも思えてきて不思議な気持ちにとらわれることもあります。もちろん、その息子あるいは娘は出来が良い訳はなく、相当な放蕩ぶりともいえるのですが、何か愛しいものである訳です。

ハービーさんのトークショーはいつも本当に驚かされます。集まってくださる方々の熱心さやリピーター率もそうですが、やはりトークのすばらしさが際立ちます。昨日のテーマは旅。今回の写真展はMy Journey, My Photographyと題したハービーさんの新しいシリーズの立ち上げでもあった訳で、ロンドンに渡ってそこからさらに旅を重ねていく若者の瑞々しくも甘酸っぱい世界観が十二分に見てとれるシリーズになっているその理由をユーモアたっぷりに話してくださいました。若者特有の「荒削り」なものは何もなく、あくまでも繊細に世界の感触や距離を手を伸ばして触れて計っているかのような、そんな作風のように感じられます。そしてそれが写真を撮る上での変わらないセンスによって美しく修飾されている、そんな写真の世界が今回の"Oil, Pride & Crisis"というコンセプトの上に描かれているのですが、トークショーではもちろん数々の撮影秘話が明かされて大変楽しいリズムのあるトークでした。日本写真協会賞作家賞を受賞されたことを会場全体が喜びを共有し、TANTOTEMPOでの写真展や兵庫県西脇市の西脇病院で開催されているARTinHOSPITAL/ART PROMENADE in 西脇病院の「ハービー・山口写真展」のことをご自身がFM放送の全国ネットで紹介されるなど、また東日本大震災の支援のためにSocio Arteや他にもたくさんの支援活動に参加されたことなど、ますます写真活動の中において写真家としての社会参加や写真のポジティブな表現について本当に多くの教唆をお示しいただいたトークショーだったと思います。いつも通り予定時間を大幅に越える2時間に渡るトークでしたが、会場の参加者の皆さまも狭くて蒸し暑い中本当に節度のある美しい姿勢でおつきあいしてくださり、主催者として本当に嬉しい気持ちでいっぱいでした。

今後の活動については、社会的にインパクトを与えうる若手の発掘を特にポジティブな表現に訴えるものの中から見いだすこと、またそれを海外へいち早く売り出すチャンネルを構築すること、国内や海外の主要な写真イベントの主催者へのインタビューをとること、海外進出を希望する写真家のとりまとめ事業、また僕自身の活動としてはARTinHOSPITALの活動をTANTOTEMPOの事業の柱に育てること、今年中に写真に関連する著作を書き上げること、などなど。直近の目標はレビューサンタフェの主催者への取材と若手写真家のポートフォリオ、写真集をアメリカやパリのギャラリーに持ち込むことなども実施予定です。

トークショー後は山田の作った手作り料理で50名あまりの参加者の皆さまとともにハービーさんの写真展のレセプション、またTANTOTEMPO3周年のお祝いを盛り上げていただきました。ひとの笑顔が途切れることなく、参加者一人一人と談笑され、即席のレビュー、撮影などたくさんの交流をされて久しぶりの神戸を楽しまれて帰られたのではないかと思います。TANTOTEMPOにとってもこの上ないすばらしいお祝いでした。参加者の皆さん、ハービー・山口さんにこの場をおかりして深く感謝申し上げます。

写真展は6月5日までです。ぜひTANTOTEMPOにお越しになってご覧ください。
R0010929.jpgTANTOTEMPO設立3周年を記念する写真展として、ハービー・山口さんの写真展が5月7日から始まっています。

今回はオープニングなどで特別な行事は行わず静かな滑り出しですが、連休最後の週末ということもありたくさんの方が来廊くださいました。

今回のシリーズはハービーさんの1970年代のシリーズで、ロンドン滞在時に世界中を席巻したオイルショックに触れてハービーさん自身がクウェートに入り撮影した"OIL PRIDE & CRISIS"シリーズを本邦初公開でご紹介するものです。日本でも高度成長期にオイルショックのためにトイレットペーパーや石油製品が買い占められ、社会が大変なパニックに陥ったことを記憶されている方も多いと思います。産油国と欧米列強との駆け引きによってもたらされたこの社会騒動について、ロンドンから世界を眺めようとしていた若き写真家が大変興味を持ち、クウェートに入って石油の匂いに身を寄せるという体験をするのです。
クウェートで目撃するものは何か、第4次中東戦争の陰でペルシャ湾岸諸国が欧米列強に対して反イスラエルの道具として行った原油減産という出来事が、かずかずの優れた、素直な視点で写真にきりとられています。

40年間作風が変わらない、とハービーさんご自身も話されるように、ハービーさんの写真に対する基本的な姿勢は1973年のこのシリーズから現在まで変わっていないように思います。人々の飾らない姿を撮影して人の優しさや力強さに訴えたり、胸を打つ光景を切り取る能力は、まさにハービーさんのセンスの高さそのものです。それは1970年代にロンドンに渡るときから現在に至るまで全くぶれることなく常に高い位置に保たれており、本当にすばらしい写真活動だと思います。4月には日本写真協会作家賞にも選出され、まずます写真界のみならず社会への影響を強めていかれるのではないかと期待しています。

"A Scent of Oil"をTANTOTEMPOでぜひご覧ください。

なお、本展覧会のトークショーについて、ひと言皆さまにお詫び申し上げます。4月初旬のHP告知から順次参加者の募集をおこなってまいりましたが、写真展開始時点でハービーさんのトークショーは満席となっております。大変申し訳ありません。キャンセル待ちもあまり期待できない状況ですので、どうぞご理解ご協力をくださいますようよろしくお願いいたします。本写真展にて本シリーズまたはハービー・山口さんの他のシリーズ作品をお買い上げいただきますと、数席ですが優先で固定席をご用意することになっています。ぜひ作品お買い上げをご検討くださいますようお願いいたします。
R0016097.jpg5月1日、TANTOTEMPOにてSocio Arteの枠組みの緊急ギャラリートークを開催しました。

このギャラリートークは、震災後被災地で写真を撮影された写真家の鷲尾和彦さんがギャラリーを訪れてくださったことから急遽決まったギャラリートークです。被災地の現状をテレビなどのニュースで知るしかない私たちにとって、現地で撮影されたイメージを見ながら被災地に思いを届けるのはとても重要だと考え、この思いを鷲尾さんにお伝えしたところ、急遽ギャラリートークが決定しました。急な告知だったのも関わらず、当日会場にはたくさんの方が来てくださいました。

ギャラリートークでは、まず今回の地震および津波の被害状況について、被災地に入った写真家の立場から、鷲尾和彦さんがスライドショーを中心に写真で紹介していただきました。被災後しばらく経ってからの撮影とはいえ、生々しい被災地の様子が伝わってくるスライドショーで、参加者も息をのむシーンもありました。しかし、全体的に抑制がとれたわかりやすい写真が多かったと思います。現地に入った写真家の多くが抱く「被災地の写真を世に出していいのだろうか。出すのであればいつなのだろう。」という悩みについても鷲尾さんも率直に語っておられましたが、神戸で震災を経験した立場から、またギャラリーの立場として、あらゆるイメージが震災の記録という観点から重要であり、写真家として現地に入ったのであればどのようなシークエンスも発表の義務と責任を負うとの意見を述べました。被災者への配慮、という考えは必要だけれど、真実への訴求は緩めてはならないというのが僕自身の考え方であると伝えました。

次に、神戸の震災の体験から、都市型の震災と今回の津波被害との違いや復興への困難さについて会場で意見を共有しました。特に、人々が多く住み暮らしと産業が周辺に適度に分散した都市の震災と、暮らしと産業が一体化している今回の被災地の状況とがまるで異なっていることを鷲尾さんの写真からひもときながら考えてみました。結局のところこの街を離れることのできない人が行政の関与と自身の努力でカバーしてきた神戸と、被災の状況も復興も構造が根本的に異なるのではないかとの意見で、やはりこのような災害に対する支援を考えた場合もっとも必要なことは、忘却と疲労への対策だと思います。

大きな被害についてはどうしても国主導の復興支援が必要不可欠で、とすれば国民の税金が被災地に投入されるのはやむを得ない訳ですが、神戸を例にとるとあらゆる人の暮らしの断片について税金の投入ですべてがまかなわれると考えるのには無理があります。まず必要最小限の生活から、次にインフラや大きな産業から復興というものはなされていって、文化や芸術がつい遅れるなど、やはり力関係によって差がつく可能性がある訳です。

人は社会との関係性によって、その活動を文明として発展させてきました。本来ひとはちっぽけな動物に過ぎない訳ですが、文明社会への参加をすることで人類は未来への礎を築いてきました。3つ目のセッションでは鷲尾和彦さんの代表作「極東ホテル」(赤々舎)をスライドショーにて拝見しました。この写真集は、まさに文明の澱みのような場所にたたずむ人びとを写真家独特のまなざしで撮影した優れた写真集だと思います。独特のまなざしとは、突き放すでも寄り添うでもない、極めてニュートラルな距離感でホテルの逗留客を撮影している視線です。鷲尾さんの「極東ホテル」のスライドショーを見た私たちは、私たち一人一人がちっぽけであることを思い知らされると同時に、何らかの立場でこの世に参加していることを再確認します。孤独であってもなくても、私たちは社会に組み込まれているそのことから逃れることはできません。普段の暮らしにおいて社会に参加する意識をもつか持たないかは各自が自由に決めるとしても、誰かが苦境に陥ったことに対して責任のある立場で問題解決に参加することの重要性は、今回の震災とその復興でよりはっきりと意識する必要があるように感じられました。「極東ホテル」には孤独と同時につながりが描かれているのです。

最後のセッションは、被災地への義援金や文化芸術、教育に対するほんの小さな支えをアートや写真界隈から捻出しようというのがSocio Arteの枠組みについての説明とステートメントの確認です。震災当日の夜から明け方にかけて構想を練り、翌朝から動き出して早々に募金箱を制作、活動をすすめてきましたが、たくさんの方が賛同くださって一通り形になるには時間と大きな労力がかかるだろうことは容易に想像がつきます。なぜならアートにはまとまってある問題に構造をあてて解決するといった場や方法がなく、それぞれがばらばらに支援をするしかないのが実情だからです。Socio Arteの目論みは、まさにこの点に焦点をあてて緩やかでも構造をあてて考えてみたいという意思表示であったのですが、いろいろなアートの担い手に問いかけたもののやはり難しいだろうというのが大方の見解でした。しかし、僕自身は難しいとは思っていません。参加を通じて構造を作ることほど現代の日本に必要なものはないと考えるからです。

Socio Arte Kobe 2011のステートメントは以下の通りです。

  • 私たちは東日本大震災の悲しみを決して忘れません
  • 私たちはアートの価値を高め、日常の暮らしに根ざしたアートの活動がかなうよう日々努力します
  • 私たちは制作したまたは手にした作品を愛なで、日々眺め、被災地を思います
  • アートに参加する私たちアーティスト、枠組み実施母体、作品購入者は、アートを通じて被災地に長く大きな支援を届けます

Socio Arte Kobe 2011にご参加くださりありがとうございました。
どうぞ今後ともよろしくご支援をくださいますようお願いいたします。

R0016084.jpg大変遅くなりましたが、4月23日に開始しましたSocio Arte Kobe 2011東日本大震災復興支援チャリティ写真展が5月3日無事終了いたしました。

結果的に内外32名の写真家からお預かりした写真プリントのうち、ちょうど100枚を売り上げ、期間中TANTOTEMPOにて募金箱にて得られた義援金と併せ総額¥833,292の支援金を得ることができました。期間中、本当に多くの写真ファン、アートファンが訪れてくださり、当初は人気のある写真家の作品を中心に、後半はまんべんなく買いがあり、結果的に10日あまりに100枚のプリント販売を通じて大変大きな額の支援がかないましたのでご報告いたしますとともに、ご協力くださいました皆さまにこころより感謝申し上げます。

Socio Arte Kobe 2011という枠組みでの写真アートからの支援はこれで一旦集計し、5月中旬をめどに二分割し日本赤十字社、ジャパンプラットフォームにそれぞれ義援金をSocio Arte名義にて送ることにしています。これらの支援は写真家の皆さん、アートや写真をこよなく愛する賛同者の皆さまによって、また私たちSocio Arte Kobe 2011の実行者の3者が力を合わせて得ることができたものと考えており、かつて大きな被害を受けた阪神淡路大震災の被災地としての立場から早々に表明して立ち上げたSocio Arteのアートからの被災地支援プログラムの趣旨に基づいてご賛同いただいたすべてのかたの意思として被災地に届けられるものと考えており、本年の留まらずさらに大きな枠組みに育てながらより視野の広い、長いスパンで支援できるプログラムにしようと考えております。

どうぞ引き続きSocio ArteまたSocio Arte Kobeの活動にご支援をいただきますようよろしくお願いいたします。

ご支援、ご協力ありがとうございました。