写真を手に入れるということ

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僕は以前は毎週のように写真を撮って歩いていました。どちらかというとカメラ趣味が高じて写真を撮りだしたんだと思います。ライカや古いマミヤ、ローライフレックスなど今でも大切に所有しています。たいていはモノクロフィルムで撮影し、自宅の暗室でフィルム現像、プリントまでしていました。そのときの楽しさは今でも忘れることができませんが、当時の僕の写真のゴールは、引き伸ばして額装して自室に飾ることでした。それを恋人に見てもらったら、あとはインテリアの延長線上で自室の雰囲気作りに飾り付けています。いい写真を撮ってプリントに仕上げて、いい額縁に額装して部屋に飾るという行為は、とてもポジティブな活動です。はじまりと結果に目的があり、満足できる品のいい質の高い作品に仕上げるという行為は、自己完結型ではあるけれどもクリエイティブマインドに満ちているからでしょう。でも、忙しくなった一昨年からそう頻繁に写真を撮りにいけなくなりました。フィルムで撮影するのをやめてしまって、もっぱらRICHO GRデジタルと小型デジタル一眼レフを使用するようになってしまいました。撮影してもマックのHDに保存していくだけで、ごくたまにiPodやiPhotoのスライドショーで眺めるぐらい。こういうのってポジティブともいえなくて、なんて言うんでしょう、中途半端。写真の腕も下がってきてしまいました。

そんな時に、一昨年のアサヒカメラの特集でパリフォトという世界でも最も大きな写真の見本市のようなイベントのことを知り、オリジナルプリントに興味を持つようになった訳です。自分でオリジナルプリントを制作するのではなく、優れた写真家のオリジナルプリントを手に入れる、ということがどのようなものかを考えるようになりました。はて?オリジナルプリントはどこで手に入れることができるんだろう?ということで、いろいろ探して回りましたが、ネット上で見つけたサイトで写真家やオリジナルプリントの情報を広く網羅して記述しているサイトは、東京・目黒のブリッツギャラリーだけでした。ふーん、オリジナルプリントっていうものはそう簡単には手に入らないんだ、というのが当時の僕の率直な感想です。そう、その号のアサヒカメラでも書いてありましたが、日本には生活空間に写真を飾るという文化が欧米ほど育ってなく、マーケットがない訳ですから、当然それを売るところも少ない訳です。オリジナルプリントが欲しければ、写真家名などで検索し、写真家サイトから購入可能なギャラリーを探すか、取り扱い写真家としてヒットした写真専門ギャラリーと直接交渉しながら探すほかありません。そうすると、僕たちは手に入れたい写真をどこかで既に見ているか、少なくとも写真家の名前くらいは知っておく必要があります。自分のライフスタイルにあったイメージの写真を、いろいろな作家のアーカイバルから抽出し手に入れるということはなかなか難しい訳です。

そこで、一つのアイデアがわき上がりました。
(写真は昨年PARISPHOTO2007を訪れた際宿泊したアパルトマンの部屋。ここにもオリジナルプリントが飾ってありました)
それなら、自分たちでそういう事業を立ち上げてみようではないか。

僕たちはいろんな人に声をかけて、写真って家に飾っている?と聞いて回りました。ほとんどの友人たちは、写真を家に飾っているのですが、たいていは家族や恋人の写真ばかりです。それでもちゃんと飾っていることに感動した訳ですが、その次の質問にはほとんどの人が否定的な見解を述べてくれました。「オリジナルプリントというものがあって、有名な写真家の写真を買えるとしたら、買う?」。こぎれいな絵はがきは買って壁などに飾るという人たちも、オリジナルプリントのイメージがわかないようです。「絵はがきとどうちがうのん?」とか、「写真にそんな値段つけてええのん?」という返答は論外ですが、(意外にそんなイメージしかないというのも現実ですね)、やはりオリジナルプリントの存在とアート作品としての価値を知らないために、答えようがないというのが実情です。もっとも、こういったアートに興味を持たないグループは仕方がないとして、現代アートや観劇、映画、音楽を通じてアートを受け入れているポピュレーションでさえ、回答はほとんど同じでした。写真というメディアがこれほど世界中を埋め尽くしているという現実の中にあっても、オリジナルプリントという視点で目に触れることが意外と少ない写真というアートは、アートと触れあうことを喜びとする人々から見てもあまり近しいものではないのです。

となると、既存の商用写真専門ギャラリーと同じものを開設しても、写真展示販売のチャンネルを一つ増やすだけで、オリジナルプリントの潜在的マーケットの拡大にはつながりません。つまり、マーケットたるアートを好むコンシューマのグループやその予備軍を、アートフォトに向かわせる仕組みが必要だと思うのです。そこで考えたのがフォトライブラリーをもつこと、そして若手の写真家たちによるいつでも手にすることのできるイメージのライブラリー、TANTOTEMPO pureの仕組みです。

TANTOTEMPOがどうしてメインギャラリーを全面に押し出さないかというと、やはり既存のギャラリーの役割とは別の役割が写真マーケットの裾野を広げるためには絶対に必要だと考えるからです。凛として静寂のなかを美しい写真を眺めながら歩く既存のギャラリーは、これからも絶対に必要だと思います。写真の文化的価値を高めてきたのは、そういった写真ギャラリーの長い努力があったからにほかなりません。

一方で、そういったギャラリーで写真を購入することのイメージは、一般の店舗でモノを購入するそれとはあまりにかけ離れています。アート作品を手に入れるということと一般的な商品を手に入れることとに大きな違いはあるからかもしれませんが、例えばもう少し上質のこだわり家具を手に入れることとは通じるものがあるかもしれません。写真というものは、それが雑貨的なポストカードであれ、一流の写真家の高額なオリジナルプリントであれ、「飾る」という行為がもたらす生活空間の環境変化を生み出すことで受け入れられるものだと思います。加えて、オリジナルプリントの場合、数の限られたいいものを所有するというなんとも甘い優越感が付け加わって、人々の生活にある種の豊かさや緊張感をもたらしてくれるのです。そういったことは、一度は経験してみないとわからないだろうと考えられます。その体験をしてもらえる合理的な場を提供することが、TANTOTEMPOの目指しているフォトライブラリカフェという概念と、サブブランドのTANTOTEMPO pureです。

もっと写真をみてもらおう。もっと生活空間に写真を飾ってもらおう。自分自身で撮った写真を飾ってみよう。最初はあまり高額ではない写真でも、自分のイメージに合うものを購入してみよう。部屋に飾り付けて生活に小さな潤いを得る体験をしてみよう。もっと生活のグレードがあがったときに、もっとすばらしいオリジナルプリントを手に入れよう。こういうサイクルが日本にもっと根付けばうれしいと思います。

オリジナルプリントを生活空間に飾るということは、すばらしい体験です。

皆さんも、ぜひお近くの写真ギャラリーを訪れて、オリジナルプリントを実際に見てみてください。きっと生活空間に持ち帰りくなるような作品があるはずです。

コメント(4)

読ませていただきながら、何度もうん、うんと
うなづいてしまいました。
うちの場合、ひろパパさんは全く写真を撮らないんですが
長年、凄いカメラマンの方々とお仕事をさせて貰い、
その技術の高さに驚いてはいたんですが、
プライベート作品を観たとき
心底、感動してしまったんでしょうねえ〜。
おかげで、こんな事に・・・
でも心強い味方が出現して下さいましたわ♪

心強い味方・・になれるようがんばるのみですね。しゅるしゅると音を立てて消えていってしまう運命かも。なんてことだってある訳です。しかし、僕は楽観的です。
楽しいギャラリーにしてみたいですね。

はじめまして。

ブログを読ませていただいて、とても感動しました。
神戸にこんな場所ができるだなんて。
私も写真を撮るのですが、まだ写真歴が浅く、そこまではまだ到達していません。
ただ、自分のオリジナルプリントを知人に「その写真ほしい。部屋に飾りたい」と言って
もらったとき、とっても嬉しかった、ということの延長に、そういうことがあるかも、
と思いました。

どんな場所ができるのでしょう。期待しています。

ypsilonさま、うれしいコメントありがとうございます。ギャラリーの準備は着々と進んでいます。とても美しい作りになっています。ご期待ください。トークショーへのお申し込みもありがとうございました。

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